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No. 26: FPGA デザインノート 第3回
RISC-V SoC FPGA が広げる産業機器設計の選択肢
~PolarFire SoC による監視・制御・高速処理の統合~

はじめに

第1回では、産業機器においてマイコンと FPGA をどのように使い分けるべきかを整理し、FPGA 導入時に直面しやすい課題として、消費電力、設計複雑性、コンフィギュレーション信頼性、セキュリティ、長期供給を取り上げました。第2回では、これらの課題に対する解決策として、PolarFire FPGA の不揮発性アーキテクチャ、低消費電力、SEU 耐性、セキュリティ機能、長期供給の価値を解説しました。最終回となる本稿では、これらの特徴を継承しながら、RISC-V プロセッササブシステムを統合した PolarFire SoC を取り上げます。

産業機器では、単に高速な演算器を搭載するだけでは不十分です。モータ制御、センサ集約、通信処理、状態監視、ログ取得、上位システム連携など、性質の異なる処理を1つの装置内で安定して動作させる必要があります。ここで重要になるのは、「どの処理をソフトウェアで実行し、どの処理をハードウェアで実行するか」という役割分担です。

PolarFire SoC は、FPGA ファブリックに加えて、1個の監視・制御用 RISC-V E51 コアと、4個のアプリケーション用 RISC-V U54 コアを搭載しています。さらに、コヒーレントな RISC-V CPU クラスタ、決定論的 L2 メモリサブシステム、DDR メモリコントローラ、豊富なペリフェラルを統合しており、Linux アプリケーションとリアルタイム制御を1つのデバイス上で構成できます。Microchip 社も PolarFire SoC を、決定論的でコヒーレントな RISC-V CPU クラスタと L2 メモリサブシステムを備え、Linux およびリアルタイム用途に対応する SoC FPGA として説明しています。

1. PolarFire SoC の基本構成

PolarFire SoC の特徴は、FPGA とプロセッサを単に同じパッケージに入れたことではありません。産業機器で必要となる「監視」「制御」「アプリケーション処理」「高速並列処理」を、1チップ内で分担しやすい構成にしている点にあります。

表1:PolarFire SoC における主な処理の役割分担

構成要素 主な役割 産業機器での使いどころ
E51 monitor core 起動制御、監視、システム管理 ブート制御、安全監視、異常時の復旧処理
U54 application cores ×4 Linux、RTOS、アプリケーション処理 通信、ログ、HMI、上位システム連携
FPGA fabric 並列処理、低遅延 I/O、カスタム回路 PWM 生成、エンコーダ入力、センサ前処理、独自 I/F
L2 memory subsystem CPU クラスタ間のメモリ管理 Linux 処理とリアルタイム処理の共存
DDR memory controller / peripherals 外部メモリ・通信 I/F 制御 Ethernet、CAN、SPI、I2C、UART などの接続

この表で重要なのは、PolarFire SoC を「Linux が動く FPGA」としてだけ見ないことです。むしろ、CPU で柔軟に処理したい領域と、FPGA で決定論的に処理したい領域を、1つのデバイス内で整理できる点が本質です。

たとえば、モータ制御では、PWM 生成、エンコーダ入力、電流サンプリングのタイミングは FPGA fabric 側で処理し、制御パラメータの管理、通信、ログ、保守画面との連携は U54 コア側で処理できます。E51 コアは、起動時の初期化やシステム監視に割り当てることで、アプリケーション処理と監視処理を分離できます。

2. E51 コアと U54 コアによる監視・アプリケーション分離

PolarFire SoC は、1個の監視・制御用 RISC-V E51 コアと4個のアプリケーション用 RISC-V U54 コアを備えています。E51 コアは監視・起動制御に適した役割を担い、U54 コアは Linux や RTOS を用いたアプリケーション処理に適しています。Microchip 社の資料でも、Hart Software Services は監視・制御用 E51 コア上で動作し、MSS の初期化、メモリへのプログラム展開、複数アプリケーションの起動、MSS 内のプロセッサ間通信を支援すると説明されています。

産業機器では、アプリケーション処理と監視処理を分けられることに実務的な意味があります。

たとえば、Linux 上で通信スタックや Web UI を動作させる場合、アプリケーションの負荷変動やソフトウェア更新の影響を完全にゼロにはできません。一方で、装置の安全監視や異常時の復旧処理は、アプリケーション処理とは切り離して考えるべきです。E51 コアを監視・起動制御に使い、U54 コアをアプリケーション処理に割り当てる構成は、この分離に適しています。

この考え方は、既存の他社 SoC FPGA を置き換える場合にも重要です。単純なピン互換やソフトウェア移植だけで考えるのではなく、「プロセッサ側で担っていた処理」「プログラマブルロジック側で担っていた処理」「外付け IC で補っていた処理」を棚卸しし、PolarFire SoC 上で再配置することが現実的な検討ステップになります。

3. コヒーレント・スイッチと決定論的 L2 メモリサブシステム

PolarFire SoC のもう一つの重要な特徴が、コヒーレントな RISC-V CPU クラスタと決定論的 L2 メモリサブシステムです。

一般的な組み込み Linux システムでは、プロセッサ処理、DMA、外部メモリ、リアルタイム処理が混在すると、メモリアクセスの競合や遅延ばらつきが問題になります。これは、制御周期や応答時間を重視する産業機器では無視できません。

PolarFire SoC では、Linux アプリケーションとリアルタイム処理を同じマルチコア CPU クラスタ上で構成できることが特徴です。さらに、L2 メモリサブシステムを活用することで、処理の性質に応じたメモリ配置やアクセス設計を行いやすくなります。Microchip 社の移行資料でも、PolarFire SoC MSS は5コア 64 ビット RISC-V CPU、L2 cache、豊富なペリフェラル、ハード化された DDR コントローラ、DMA コントローラなどを含むと説明されています。

ここでの訴求点は、単純な「CPU 性能」ではありません。産業機器では、最高性能よりも、負荷変動時に制御が乱れないこと、長時間運転で挙動を予測できること、ソフトウェア更新後も制御周期を維持できることが重要です。PolarFire SoC は、FPGA ファブリックによる決定論的なI/O処理と、RISC-V クラスタによる柔軟なソフトウェア処理を組み合わせることで、この課題に対応できます。

図1:PolarFire SoC による産業機器向けシステム構成例

図1:PolarFire SoCによる産業機器向けシステム構成例

図の説明

この図では、PolarFire SoC を「ソフトウェア処理」と「ハードウェア処理」の境界を柔軟に設計できるデバイスとして示します。FPGA ファブリックは、ナノ秒~マイクロ秒単位のタイミング制御、多チャネル同時処理、独自インターフェースに適しています。一方、U54 コアは Linux や RTOS を用いた通信処理、ログ処理、診断処理、上位システム連携に適しています。E51 コアは、システム起動や監視を担うことで、アプリケーション処理から独立した管理機能を構成できます。

この図では、RISC-V MSS と FPGA ファブリックを上下2段の大きな矩形で表現し、外部 I/O から FPGA ファブリックへ、FPGA ファブリックから MSS へ、MSS から上位システムへ直角コネクタで接続すると、産業機器の処理分担が理解しやすくなります。

4. オンチップ DDR メモリコントローラと豊富なペリフェラル

PolarFire SoC は、オンチップの DDR メモリコントローラや、Ethernet、CAN、SPI、I2C、UART などのペリフェラルを備えています。これにより、従来は外付けプロセッサ、FPGA、メモリコントローラ、通信 IC を組み合わせていた構成を、より少ない部品点数で構成できる可能性があります。

特に、産業機器では以下のような効果が期待できます。

第一に、基板構成の簡素化です。プロセッサと FPGA を別々に搭載する場合、両者のバス接続、起動順序、リセット制御、電源シーケンス、メモリ共有を個別に設計する必要があります。PolarFire SoC では、これらの多くを1チップ内で整理できるため、基板設計と検証の負担を軽減できます。

第二に、リアルタイム制御と通信処理の共存です。FPGA ファブリックで高速 I/O や制御タイミングを処理しながら、U54 コアで Ethernet 通信、ログ保存、Web ベースの設定画面などを動作させる構成が取りやすくなります。

第三に、長期供給が求められる産業機器において、部品点数を減らすことは、調達リスクや EOL 対応リスクの低減にもつながります。これは第2回で説明した PolarFire FPGA の長期供給価値とも整合します。

表2:ユースケース別の適用イメージ

ユースケース 従来構成での課題 PolarFire SoC での構成例 期待できる効果
モータ制御
装置
マイコンでは多軸同期制御が厳しく、
FPGA 追加で基板が複雑化
FPGA ファブリックで PWM/エンコーダ処理、
U54 で通信・ログ、E51 で監視
制御応答と保守性の両立、
基板構成の簡素化
センサ集約
装置
多チャネル入力と時刻同期処理で
CPU 負荷が増大
FPGA ファブリックで同時取得・前処理、
U54 でデータ整理・送信
低遅延処理と上位連携の両立
信号処理
装置
DSP/FPGA/CPU の分散構成で
電力・発熱・部品点数が増える
FPGA ファブリックでフィルタ処理、
U54 で解析・保存・通信
低消費電力化、
熱設計の余裕確保
既存 SoC FPGA
置換
供給不安、消費電力、発熱
、設計資産移行が課題
既存の PL/PS 分担を棚卸しし、
MSS とファブリックへ再配置
長期供給、電力低減、
段階的な移行検討

この表の狙いは、PolarFire SoC を単なる高機能デバイスとして紹介することではありません。既存設計のどの部分を残し、どの部分を再設計し、どの部分を1チップに統合できるかを検討するための会話材料にすることです。

特に置き換え案件では、「現在使っている FPGA のロジック規模」だけで判断すると不十分です。CPU 側の処理、OS の有無、外部 DDR、通信インターフェース、起動シーケンス、フィールド更新方法、セキュリティ要件まで含めて確認する必要があります。

5. 評価キットによる検証:PolarFire SoC Icicle Kit

PolarFire SoC の評価には、PolarFire SoC Icicle Kit が有効です。Microchip 社の現行ページでは、同キットは Linux 対応 RISC-V SoC、リアルタイム処理、低消費電力動作、豊富なペリフェラル統合を評価するための低コスト開発プラットフォームとして説明されています。ハードウェア機能として、5コア RISC-V CPU、低消費電力 PolarFire FPGA ファブリック、高速シリアル IO、PCIe Gen2、2つの Gigabit Ethernet、LPDDR4、eMMC、SD、SPI Flash、Raspberry Pi ヘッダ、mikroBUS、UART/SPI/I2C/CAN などが示されています。

評価時には、以下の観点で確認すると、実案件への適用判断がしやすくなります。

  • Linux 起動、ネットワーク接続、アプリケーション実行の確認
  • FPGA ファブリック側での I/O 処理、PWM、センサ前処理の確認
  • MSS と FPGA ファブリック間のデータ受け渡し方法の確認
  • 消費電力、発熱、筐体条件を想定した評価
  • 既存設計から移行する場合の CPU 処理、FPGA 処理、外付け部品の棚卸し

具体的な評価キットの入手方法、既存設計からの置き換え検討、消費電力測定、リファレンスデザイン確認については、当社営業までお問い合わせください。お客様のシステム要件に合わせて、評価項目の整理から技術検証まで支援いたします。

まとめ:3回連載で見えてきた FPGA 選定の判断軸

本連載では、産業機器における FPGA 選定を、単なるデバイス性能比較ではなく、システム設計全体の観点から整理しました。

第1回では、マイコンと FPGA の違いを明確にし、FPGA が有効となる条件と導入時の課題を整理しました。第2回では、PolarFire FPGA が不揮発性、低消費電力、SEU 耐性、セキュリティ、長期供給の面で、産業機器に適した特徴を持つことを解説しました。そして第3回では、PolarFire SoC により、FPGA ファブリックと RISC-V プロセッサを組み合わせたシステム構成が可能になることを説明しました。

産業機器では、処理性能だけでなく、電力、発熱、起動時間、信頼性、保守性、長期供給、セキュリティを総合的に判断する必要があります。PolarFire FPGA および PolarFire SoC は、これらの課題に対して、単なる部品置き換えではなく、システム構成そのものを見直す選択肢を提供します。

既存のマイコン構成で性能やリアルタイム性に限界を感じている場合、または一般的な SRAM FPGA/SoC FPGA 構成で消費電力、発熱、供給継続、部品点数に課題を感じている場合は、PolarFire FPGA および PolarFire SoC を評価候補に加える価値があります。特に、監視・制御・通信・高速 I/O 処理を1つの装置内で統合したい産業機器では、PolarFire SoC Icicle Kit を用いた初期評価から始めることをお奨めします。

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  • 発行元:グローバル電子株式会社
  • 公開メディア:WEB および PDF

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