連載企画:ヒートシンクを使った熱設計の基礎知識

~ 連載企画:ヒートシンクを使った熱設計の基礎知識 ~

第1回:ヒートシンクはなぜ必要?

著者:深川 栄生(Fukagawa Shigeo)

はじめに

電子機器の小型化や高性能化にともない、「熱設計」の重要性がますます高まっています。熱設計とは、「半導体素子などの電子部品から発生した熱を効率よく逃がし、安全な温度で動作するように設計すること」です。熱設計で重要な役割を果たすのが、「ヒートシンク」です。今回は、次の3つの疑問を順番に解決しながら、ヒートシンクが必要な理由をわかりやすく解説します。

  1. なぜ半導体素子の温度は上がるのか?
  2. なぜ半導体素子の温度を下げなければならないのか?
  3. なぜヒートシンクを取り付けると温度が下がるのか?

難しい数式を使わずに、熱設計の基本を学んでいきましょう。

第1章 なぜ半導体素子の温度は上がるのか?

半導体素子に電流を流すと、電気エネルギーの一部が熱エネルギーに変わります。この熱に変わるエネルギーを「損失」と呼びます。損失によって熱が発生し、半導体素子の温度が上がります。半導体素子で発生する代表的な損失には、「導通損失」と「スイッチング損失」の2つがあります。

(1) 導通損失

半導体素子に電流が流れている状態を「オン状態」といいます。オン状態の半導体素子には、「オン抵抗」と呼ばれる非常に小さな抵抗があります。この抵抗に電流が流れると熱が発生します。このときに発生する損失を「導通損失」といいます。

(2) スイッチング損失

半導体素子は、電流を流すオン状態と流さないオフ状態を、高速で切り替えて使用されることがよくあります。このオンとオフを切り替える動作を「スイッチング」といいます。スイッチングは瞬時に行われるわけではなく、切り替えにはわずかな時間がかかります。切り替えている間、半導体素子には電圧がかかると同時に電流も流れるため、損失が発生するのです。このときに発生する損失を「スイッチング損失」といいます。

1-1 発熱は避けられない物理現象

このように、半導体素子に電流を流すと、必ず損失が発生します。損失は熱となり、半導体素子の温度を上げます。半導体が持つ物理的な性質上、損失を完全にゼロにすることはできません。

1-2 発熱密度が高いほど温度は上がる

半導体素子の温度が上がるもう一つの理由が「発熱密度」です。

発熱密度とは、「一定の面積からどのくらい熱が発生するか」を表す値です。半導体素子が小さいほど、発熱密度は高くなり、温度が上がりやすくなります。これは、虫メガネで太陽光を集める場合とよく似ています。同じ量の太陽光でも、広い範囲に当たっている場合は、それほど温度は上がりません。しかし、虫メガネで小さな一点に集めると、紙が焦げるほどの高温になります。

半導体素子も同じように、狭い範囲に発熱が集中すると温度が高くなりやすいのです。

虫メガネで小さな一点に集めると、紙が焦げるほどの高温になる

第2章 なぜ半導体素子の温度を下げなければならないのか?

2-1 最大ジャンクション温度とは

半導体メーカーは、製品ごとに「最大ジャンクション温度」を定めています。ジャンクション温度とは、「半導体チップ内部で最も温度が高くなる場所の温度」のことです。

一般的な最大ジャンクション温度は、

  • 125℃
  • 150℃
  • 175℃

などに設定されています。この温度を超えてしまうと、半導体本来の性能や信頼性を保証できなくなります。

2-2 最大ジャンクション温度未満でも安心できない

半導体素子は、最大ジャンクション温度を超えない限り、すぐに故障することはありません。しかし、最大ジャンクション温度を超えていなくても、半導体素子の温度が高くなるほど、次のような問題が生じやすくなります。

  • 性能が落ちる
  • 寿命が短くなる
  • 故障しやすくなる

それぞれについて解説します。

2-2-1 性能が落ちる

半導体素子の温度が高くなると、性能が低下することがあります。ここでは、イメージしやすいように、身近な例を2つ紹介します。

(1) パソコン・スマートフォン

パソコンやスマートフォンの頭脳であるCPUやGPUは、高温になると、「サーマルスロットリング」という保護機能が働きます。サーマルスロットリングとは、「半導体素子の温度が高くなりすぎないように、動作速度や消費電力を一時的に下げる機能」のことです。そのため…

  • パソコンの処理速度が遅くなる
  • スマートフォンでゲームの映像がカクカクする

…といった現象が起こります。

(2) LED照明

LEDは、光を出す半導体素子で、ダイオードの仲間です。温度が高くなるほど、発光効率が低下する性質があります。発光効率とは、「同じ電力でどのくらい明るく光るか」を表す値です。そのため、消費電力が同じでも…

  • 温度が低い → 明るく光る
  • 温度が高い → 暗くなる

…というように、温度によって明るさに差が生じます。

このように、半導体素子は温度が高くなると、本来の性能を十分に発揮できなくなることがあります。

LED 照明器具の温度が高くなる

2-2-2 寿命が短くなる

半導体素子に限らず、多くの電子部品は、温度が高くなるほど寿命が短くなります。

これは、部品を構成する材料の劣化や化学反応が、高温になるほど速く進むためです。熱設計の分野では、「温度が10℃上がると寿命が約半分になる」という経験則がよく使われます。すべての部品に当てはまるわけではありませんが、温度が高いほど部品の劣化が速く進むことを示す目安として広く知られています。

2-2-3 故障しやすくなる

半導体素子が高温状態で長時間使われたり、温度の上昇と下降を何度も繰り返したりすると、少しずつダメージが蓄積されます。その結果、次のような劣化や不具合が発生しやすくなります。

  • ワイヤボンド(半導体素子内部の細い配線)の劣化や断線
  • はんだクラック(はんだに発生するひび割れ)
  • 樹脂の劣化
  • 基板の反りや変形

このような劣化や不具合の積み重ねが、電子機器の故障につながります。

さらに注意しなければならないのが「熱暴走」です。

熱暴走とは、「温度が上がることで損失が増え、その損失によって発生する熱でさらに温度が上がるという悪循環が続く現象」のことです。この状態が続くと、最悪の場合、半導体素子が壊れてしまいます。

2-3 温度を下げることで信頼性を高める

電子機器には…

  • 壊れにくいこと
  • 長期間安定して動作すること

…が求められます。

そのためには、半導体素子の温度を適切に下げることが重要になります。温度を下げることで…

  • 安定して動作する
  • 寿命が長くなる
  • 故障しにくくなる

…といった効果が得られ、電子機器全体の信頼性を高めることができます。半導体素子の温度を下げるには、発生した熱を効率よく逃がすことが重要です。その役割を担うのが「ヒートシンク」です。では、ヒートシンクはどのような仕組みで半導体素子の温度を下げているのでしょうか。

次の章で詳しく解説します。

第3章 なぜヒートシンクを取り付けると温度が下がるのか?

3-1 ヒートシンクの役割

ヒートシンクは、半導体素子などの電子部品で発生した熱を効率よく周囲へ逃がし、温度を下げるための部品です。では、なぜヒートシンクを取り付けると、半導体素子の温度が下がるのでしょうか。その理由を、ヒートシンクの「材質」と「形状」に注目して見ていきましょう。

3-2 ヒートシンクの材質

こんな疑問がわきませんか?

「発熱している半導体素子に何かを取り付けたら、熱の逃げ道をふさいでしまい、かえって温度が上がるのでは?」

例えば、20℃くらいの室温でも、ダウンジャケットを着ると、暑く感じます。なぜ、ダウンジャケットとヒートシンクでは、結果が異なるのでしょうか。

この違いには、熱伝導率が関係しています。

熱伝導率とは、「熱の伝わりやすさ」を表す値です。数値が大きいほど熱は伝わりやすく、小さいほど伝わりにくくなります。

ダウンジャケットの羽毛の間には、熱を伝えにくい空気が閉じ込められています。一方、ヒートシンクには、アルミニウムなどの熱を伝えやすい金属が使われています。

厚手のダウンジャケットを着ると体の熱がこもって、暑く感じる

熱伝導率を比較してみましょう。

  • 静止した空気:約0.026 W/(m·K)
  • アルミニウム:約240 W/(m·K)

アルミニウムは、静止した空気の約1万倍も熱を伝えやすいことがわかります。つまり、羽毛の間に閉じ込められた空気は熱を伝えにくいため、体の熱がダウンジャケットの内側にこもって暑く感じるのです。

一方、ヒートシンクには、熱を伝えやすい材質が使われているため、半導体素子から受け取った熱がヒートシンク全体に伝わりやすくなります。その熱をヒートシンクの表面から周囲の空気へ逃がすことで、半導体素子の温度が下がります。

さらに、熱を逃がしやすくするには、ヒートシンクの形状も重要です。

3-3 フィンの役割

ヒートシンクには、「フィン」と呼ばれる薄い板が何枚も並んだ形状がよく使われます。

なぜ、ブロックのようなシンプルな形状ではないのでしょうか。それは、空気に触れる表面積を大きくするためです。一般に、空気に触れる表面積が大きいほど、熱を逃がしやすくなります。

熱は空気に触れているヒートシンクの表面から逃げます

これは、濡れたタオルを乾かす場合と似ています。

絞ったままのタオルは、空気に触れる面積が小さいため、乾くまでに時間がかかりますが、広げて干すと早く乾きます。

ヒートシンクも同じです。フィンによって空気に触れる面積を大きくし、熱を周囲の空気へ逃がしやすくしています。

このように、ヒートシンクは、熱を伝えやすい材質と、空気に触れる面積を大きくした形状を組み合わせることで、半導体素子の温度を下げています。

まとめ

今回は、「ヒートシンクはなぜ必要なのか」について解説しました。ポイントを振り返ってみましょう。

  • 半導体素子では、電気エネルギーの一部が熱エネルギーに変わります。
  • 温度が高くなると、性能の低下や寿命の短縮、さらには故障の原因になります。
  • ヒートシンクは、半導体素子で発生した熱を効率よく周囲へ逃がし、温度を下げるための部品です。
  • ヒートシンクを取り付けることで、半導体素子の温度上昇を抑え、電子機器の信頼性を高めることができます。

次回は、「熱の伝わり方(基礎編)」について解説します。

引き続き、ヒートシンクを使った熱設計の基本を学んでいきましょう。

ヒートシンクの選定や熱設計でお困りでしたら、お気軽にご相談ください。

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