
アイソレーションアンプ技術ノート(第4回)
今回は、当社アイソレーションアンプの技術概要について説明いたします。

技術概要
1.アイソレーションアンプの概要と特長
アイソレーションアンプの変調/復調部には、アナログ振幅変調回路を採用しています。その理由として、特に高電圧下の環境で使われる事が多いアイソレーションアンプは、誘導ノイズによる外乱に強く、エラーを起こさない事が要求されるためです。デジタル処理の場合には、大きな外乱があると、まれに致命的な動作異常、動作停止を起こすことがあります。
一方、アナログ処理方式では、外乱に対してノイズ加算による誤差が多くなりますが、動作異常や停止となるリスクが極めて低いというメリットがあるため、当社はこの方式を採用しています。
主な特長として、以下が挙げられます。
- 独自設計の小型トランスを用いたアナログ入力/アナログ出力
- 高精度の変調/復調回路を内蔵(直線性誤差 ±0.025%FS~)
- 信号入力範囲: ±5V、±10V
- 耐圧(アイソレーション電圧): 1kVACrms ~ 5kVACrms(連続)
- 入力回路のオペアンプは、外部で自由に回路構成する事ができる
- 全ての製品に、絶縁電源回路を内蔵
- 別回路を構成できるよう絶縁された正負電源出力を用意(+Viso、-Viso)
- 小型サイズのモジュール
2.回路構成
アイソレーションアンプの代表的な回路構成を図1(入力絶縁タイプ)及び、図2(出力絶縁タイプ)に示します。
(1) 入力絶縁タイプ
図1 入力絶縁タイプ
(2) 出力絶縁タイプ
図2 出力絶縁タイプ
入力絶縁タイプ(図1)による基本動作
- 変調回路:変調用信号 φ1 による振幅変調
- 復調回路:復調用信号 φ2 による同期整流
- φ1 と φ2 は、同一周期/位相で、デューティ 50% の矩形波
- 発振回路:矩形波発振器、φ2 生成、絶縁電源生成用のトランスを駆動
- 整流回路/平滑回路:変調用信号φ1の出力、絶縁部の内部電源電圧生成、及び外部用絶縁電圧 ±Viso を出力(オペアンプ1個程度の駆動、オフセット調整等に使用)
- 入力段のオペアンプは、+IN、-IN、FB を外部端子とし、回路を自由に構成可能
3.振幅変調回路/復調回路の基本原理
変調/復調回路の基本原理は、以下(図3)のようになります。
図3
- 信号絶縁トランスの結合容量は、極力小さくして入出力間の交流的な結合/漏れ電流を小さく抑える。
- トランス絶縁回路では R1 が必須
- 変調/復調用の SW 素子には、J-FET 又は CMOS-SW を使用
- 変調/復調用の φ1、φ2 信号はデューティ 50%、同一タイミングの矩形波、但しこの信号間も絶縁する。
Ea:Einをφ1でON/OFFするので、Ein~GND(0V)の矩形波となる。
Ea は Ein に完全比例するので振幅変調された矩形波となる。
Eb:トランスにより伝送されたEa
Eo:Eb を SW1 が ON のタイミングで、SW2 にて同期整流し、出力 Eo を得る。
(同期整流とすれば、Ein が負の時、出力も負となる)
・変調
変調波形Eaは理想的にはEin~0Vの矩形波ですが、トランスはインダクタンス素子であり、SW1のON/OFF時にインダクタンスへのエネルギーの蓄積/放出があるため図4 ②のようになります。実際の波形は変調回路の方式により異なります。
(φ1、φ2の1周期のフェーズ前半をα、後半をβとします。)
図4
・復調
トランスにより伝送された Eb(=Ea)について、フェーズ前半αを SW2 による同期整流で取出し C で平滑することで、Ein と同等の出力 Eo が得られます。
図5
- 上記の原理は変調周波数の1周期のうちのフェーズ前半αのみを使った半波の変復調方式です。高精度を得る方式としては、1周期のうちの前半と後半(αとβ)の両方を用いた全波の変復調方式があり、C容量も少なくできるメリットがあります。
※ 当社の高精度製品では、全波の変復調方式を用いています。
4.電源回路
- 当社のアイソレーションアンプは、全て電源を内蔵しています。
- 入力側(入力回路、変調回路)と出力側(復調回路、出力回路)を動作させるために、それぞれ電源供給が必要、入力絶縁タイプの場合は、入力側に絶縁電源を構成、出力絶縁タイプの場合は、出力側に絶縁電源を構成、3ポートタイプの場合は、入力側出力側共に絶縁電源を構成しています。
- 電源部は、DCDCコンバータ構成とし、トランスにより絶縁を確保しますが、入出力間の結合容量を極力小さく抑えたトランスとします。この結合容量が大きいと交流的に接続された状態となり、絶縁アンプではなくなります。
一般のDCDCコンバータは、この容量が数100pF~数1000pFと極めて大きく、交流の漏れ電流が多いので、実用的ではありません。そのため、それを考慮して設計された電源を内蔵しているアイソレーションアンプを採用した方が、望ましいと考えられます。
次回(第5回)では当社アイソレーションアンプの使用例を紹介致します。