No. 22: Considerations for Adopting Lithium-Ion Batteries
リチウムイオン電池の採用について
監修:有限会社オーディーエス(ODS 社)
機器の小型化・高性能化を実現する選択肢の一つであるリチウムイオン電池は、高エネルギー密度・小型軽量という大きな利点を持つ一方で、「選べばそのまま使える部品」ではありません。電池セル(以下 Cell)、保護回路、充電方式、使用条件は相互に密接に関係しており、要求仕様の整理を誤ると想定外の電源遮断や安全リスクにつながる可能性があります。本記事では、リチウムイオン電池を機器に採用する際に押さえるべき基本的な考え方から、要求仕様整理、製品化・入手性まで、リチウムイオン電池を“安全に・安定して”採用するための基本的な考え方を解説します。
1.カスタム開発
リチウムイオン電池は、カスタム開発が必要となることが多い製品です。従来の鉛バッテリーやニッケル水素電池と異なり、保護回路を必須とし、保護回路は採用する機器の特性にあわせた組み合わせで設計することが主な理由になります。また、外形の特徴としても鉛電池やニッケル水素電池と異なり多種多様な形状があることも、カスタム設計が一般的な理由となります。
2.保護回路
リチウムイオン電池は、必ず保護回路がセットになって電池パックとして製品化されます。これは、リチウムイオン電池は乱暴な使い方をすると発火・発熱・膨張等を起こすリスクがあり、これらの危険性から事故要因を未然に防ぐためです。量産設計・安全性・品質保証・トレーサビリティの観点から、機器製造元が安易にCell単体運用を前提とすることは推奨されません。さらに、日本の Cell メーカーは保護回路が所定の品質で設計・検収されているか等をチェックしています。
保護回路は、過充電・過電流・過放電・短絡等に対応する保護機能をもっています。充電回路や負荷回路が故障した場合でも電池パック自身で充電電圧の過剰や過電流を検知して電流遮断します。
例えば、最大 10A 流せる電池から 12A 流れたら電流を遮断するブレーカーのような保護機能です。しかし、これは負荷側から見ると「勝手に電流を遮断した!」こととなるので負荷回路から見るととても困ります。そこで、「要求仕様の確認」がとても重要で必須となる確認作業になります。
保護機能の一般的な設定例
- 過充電保護・過放電保護・過電流・短絡 = 電流遮断!!
- 温度検知(10kΩ@25℃ などの NTC)= センサーとして動作
3.構想と要求仕様
リチウムイオン電池は基本カスタム設計と説明しました。そのため、電池に対する要求を明確に把握することが必要であり、これを電池設計要求仕様として作成しま す。ここでは回路構想から要求仕様を出すための様子を説明します。
自社アプリケーションの回路にリチウムイオン電池を採用する理由はすでに持っておられると思います。それは、小型である事ではないでしょうか。
エネルギー密度が高い、ニッケル水素電池等と比べてCell電圧が高い等の優位性も「小型」であることでくくれるのではないでしょうか?例えば、携帯機器がどんどん小型化されたのもリチウムイオン電池のおかげです。ニッケル水素電池からリチウムイオン電池に置き換えることを例として構想と要求仕様について触れてみます。まずは電力の計算からやってみましょう。
ニッケル水素電池は、Cell 公称電圧 1.2V、リチウムイオン電池は 3.6 ~ 3.7V と3倍程度の電圧をもっております。電圧だけを見れば 1/3 で済みます。電力はどうでしょうか?単三タイプ(φ14.5×50.5mm)のニッケル水素電池の場合、1.2V/2,000mAh 前後が一般的です。18650 タイプ(φ18×65 mm)リチウムイオン電池は、3.6V/2,500mAh 程度が主流なのでこれは置き換えにちょうど良いですね。では、容量はリチウムイオン電池 1 cell 当たり 2,500mAh としましょう。
置き換えでない場合は消費電力から算出できます。消費電力がおおよそ 5V/1A とすると 5W となり、稼働時間が2時間とすると 5W×2h=10Wh 程度の電池が必要となります。電圧変換のロスや余裕度を見積もり、おおよその消費電力を見積もってみて下さい。
続いて、保護回路に影響する電流を考えてみましょう。保護回路を簡単に説明すると、設定する電圧(過充電や過放電)・電流を超えると回路を遮断して電流を止めます。例えば、Cell の仕様で許可されている最大電流を越えたら電流遮断し Cell を守ります。過充電・過放電は充電電圧を監視し超えたら回路を遮断します。
採用する機器の仕様に注目しましょう。最大運転電流・電源の投入時等に発生する突入電流等が保護回路の仕様と関連してきます。これらはリチウムイオン電池の設計の際に重要な要求仕様となります。要約すると下記が必要となります。
| 電圧の指定 | 電池の構成に必要 |
|---|---|
| 容量の指定 | 同上 |
| 連続最大動作電流 | 保護回路の設定に必要 |
| 突入電流 | 同上 |
保護回路の設定を誤ると機器への電源供給が遮断されてしまいます。例えば、DC-DC コンバーターのような回路で電源投入時のラッシュ電流が大きく過電流保護が働いてしまうような事例がありました。保護回路の電流検知には誤差があり、遮断してほしい異常時に保護回路が動作しないこともあり得ます。これらを意識して電池パックメーカーへ要求仕様書を渡せば、最適な保護ICを選択し設計してくれるでしょう。
4.製品化への配慮
リチウムイオン電池を探す場合、形状が大きな要素になります。一般的な電子部品と違い容量の大きさにより寸法も大きくなるため、余裕を持った製品化が大切になります。容量や寸法は把握しやすいので他の項目に任せるとして、最も重要な「入手性」についてご説明します。
リチウムイオン電池は、一般的な乾電池やニッケル水素電池と異なり多種多様なサイズの電池があります。それゆえに「いい感じの大きさの Cell」を見つけると製品化された時のサイズ感を考えて、特殊な Cell を採用したくなってしまう場合があります。しかし、リチウムイオン電池を探す際に最も優先するべきは「入手性」でしょう。一般部品と違い少量での購入が非常に難しいことが理由です。
先に説明したように、リチウムイオン電池は基本的にはカスタム電池です。そのため、市場に流通している保護回路実装済みの完成した電池パックは他製品向けに開発されたカスタム電池パックの流用品であることが多いです。流用品となると製造リードタイムの長納期化や継続入手が保証出来ない場合も出てきます。そのためリチウムイオン電池の問題解決をご相談いただく際、既存製品の代替電池のご希望が少なくありません。その他に多い相談は、生産中止や入手性についてです。このような入手性については代理店(グローバル電子)までご相談下さい。
グローバル電子では ODS 社や電池パックメーカー Joules Miles 社と連携して国産 Cell メーカーをはじめ広範囲の情報をリサーチし、試作の段階から相談できる体制を整えており、既存製品と同等仕様のカスタム電池パック開発にも対応しています。
コラム
電池容量の選択について
リチウムイオン電池は充電電圧を低く、充電量(SOC: State of Charge [%])を低く抑えると安全性が増すと言われています。日本の Cell メーカーでは、充電電圧を下げる等の推奨があるくらいです。もちろん公称容量いっぱいを使うことは無いとおもいますが、相談して頂ければ弊社の経験値をご説明させていただきます。機器に組み込んだ電池の寿命(交換時期)を延ばすことができるかも!?
保護回路について
保護回路はあまり敏感でも困りますね。電流の ON・OFF が高速に発生しても機器側が不便です。そのため、Delay 時間(遅延時間、無反応時間帯)と復帰にもヒステリスがあります。過敏には働かないように保護 IC は設計されています。また、電池は機器の電圧監視(負荷回路側の下限電圧設定や充電ICによる充電電圧等)によって管理されています。保護回路は充電 IC が誤動作した時にうまく動作するよう設定されるのが一般的です。
図:リチウムイオン電池保護機能(電圧監視・保護)の一例
5.標準仕様の電池
リチウムイオン電池での標準仕様電池とは、予め仕様確定を行い、必要な規格に準拠するように製造された電池で、各種認証(PSE や CE など)に準拠出来る仕様と試験を済ませ完成した電池パックです。以前は Cell メーカーでも製造していたのですが、現在 Cell メーカーでの対応はほとんどありません。設計仕様や認証関連が済ませてあるので、エンジニアは電池以外の回路設計に集中出来ます。ドイツや中国などではかなりの種類の標準仕様電池があるようですが、保護回路や認証試験を正確に確認するにはかなりの経験が必要となります。少し面倒な部分として、認証関連や電池 Cell 含む内部部品は変更される事が多くあることが挙げられます。
ニュースではリチウムイオン電池の落下・衝撃等による火災が話題になっております。リチウムイオン電池は本来これら外的要因を Cell メーカーが予測し PSE 等の安全認証で事前のテストを行うよう定められております。この試験内容を理解し十分なテストを行う事で事故を最小限に抑える事が出来ると思います。ODS 社では、使用機器に合わせて各種テスト内容の提案や必要性の説明等も随時実施しております。
有限会社オーディーエスの役割
有限会社オーディーエスは、リチウムイオン電池について要求仕様整理、設計レビュー、評価支援、電池の適切な管理運用へのアドバイス等のカスタム電池パックの設計サポートの他、充電回路や残量計測のような周辺回路の設計等、リチウムイオン電池のトータルサポートを提供しています。
Joules Miles社カスタム対応
Joules Miles 社では、用途に応じた Cell 選定、BMS 設計、筐体・配線設計、評価試験支援などのカスタム対応が可能です。詳細仕様については Joules Miles 社正規代理店グローバル電子までご相談ください。
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Design_Notes_22:リチウムイオン電池の採用について
法令・規格に関する注意
リチウムイオン電池およびそれを搭載する機器には、用途・販売地域に応じて各種法令・規格(例:UN38.3、製品安全規格等)が関係します。適用の有無や要求内容は製品カテゴリごとに異なるため、必ず個別確認が必要です。
追記
本記事は、有限会社オーディーエス:大熊氏のこれまでの支援実績に基づく一般的な知見を紹介する技術原稿をもとに、グローバル電子が編集・加筆を行ったものです。本記事は一般的な技術情報の提供を目的としたものであり、個別製品の設計・安全性・法令適合を保証するものではありません。