
RFインダクタ技術ノート
高周波同調回路、電源、フィルタ、ノイズ対策といったアプリケーションに使われるRFインダクタは、インダクタンス値以外に配慮して設計しなければならないパラメータがいくつかあります。それらを踏まえ、今回は弊社の取扱い製品コイルクラフト社の製品を一部参考にしながら、「RFインダクタのデータシートの読み方」について簡単に解説していきます。基本的な内容となっていますので、RFインダクタ選定の際、ご参考にしてください。
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RF回路に最良のパフォーマンスを発揮させるには、RFインダクタの各種定数を十分に把握し、最適化を図って選定しなければなりません。RFインダクタはインダクタンス値自体が周波数、温度、電流といった動的要因によって変化するため、インダクタンス値だけでなく、様々な電気的特性と環境特性を勘案し、十分に検討して決定することが、「良い回路」の実現につながります。
1.許容公差(Tolerance)
インダクタンス値の精度のこと。25℃の室温で測定したときのインダクタンス値のばらつき具合を示すパラメータです。RFインダクタでは大体5%くらいが標準的な値です。公差は狭ければ狭いほど(値が小さければ小さいほど)、設計が楽になり、1%という高精度の製品も販売されていますが、引き換えに単価は上がります。ここで一つ知識として把握しておいた方が良いことがあります。ほとんどのRFインダクタのインダクタンス値は、最大で125ppm程度の正の温度特性を持っています。ということは、25℃で1%の許容公差の製品を選択しても、その製品を105℃の環境で使用した場合、最大で1%近い程度の変動があることになります。許容公差はインダクタンス値がどのような条件でもその公差に収まっていることを意味しているのではなく、あくまで特定の条件下でのインダクタンス値のばらつきを示している数値です。許容公差は目安的な値と考えて設計に反映させましょう。
2.Q(Quarity Factorの頭文字)
QとはQuality Factorの頭文字をとった記号でRFインダクタの性能の良さを示す値です。RFインダクタのインピーダンスの虚部を実部で割った値で、次式で算出します。
$$Q = {2\pi f L \over R_{DC}} f=周波数、 L=インダクタンス値、 R_{DC}=抵抗値$$
一般的に高ければ高いほど良いRFインダクタといわれています。しかし、上式を見ればわかるように測定周波数が高くなってもQは大きくなります。RFインダクタの性能の良し悪しを比較する場合に使用すると便利な「Q」値ですが、同じ周波数で測定したQ値を比較しなければ意味がありませんし、さらに自己共振周波数に近くなれば大きくなります。このような特徴に留意して選定のための参考値と考えてください。
3.SRF(Self Resonance Frequency = 自己共振周波数)
理想のRFインダクタは周波数の上昇に従ってインピーダンスが直線的(リニア)に上昇します。しかし、実際のRFインダクタには、巻線の物理的な長さと材質による抵抗成分と、隣り合う巻線間に生じる容量成分が存在し、次のような等価回路となります。(図1参照)

図1 もっとも簡単な等価モデル
この等価回路に存在する抵抗RDCと容量CPの寄生成分および、RFインダクタ本来のインダクタンス値によって、共振回路が形成され、共振現象が生じます。共振する周波数に近づくとインピーダンス(交流に対する抵抗)もQ値も大きくなっていきます。図2は、あるRFインダクタのQ値のグラフです。
図2 周波数 vs Q
自己共振の周波数は次の式で表現されます。
$$f_{SR} = {1 \over 2\pi \sqrt{LC_P}}$$
周波数が自己共振周波数に近づくとRFインダクタはRFインダクタとして機能しなくなります。実際、RFインダクタとして使える周波数は自己共振周波数の四分の一以下と考えておいた方が良いでしょう。この自己共振周波数は、デバイスの材質、形状、外形寸法によって異なりますが、アルミナコアを使ったRFインダクタの方が、アルミナコアと巻線の間に容量成分が生じるため自己共振周波数が低く、コアの無い空芯のRFインダクタのほうが高くなります。
4.Irms:定格電流
Irmsは温度上昇にかかわる定格電流です。rmsとはRoot Mean Square(二乗平均平方根)、すなわち、電流の実行平均値を表します。RFインダクタの抵抗成分RDCで消費される電力損失によってRFインダクタが発熱します。消費電力は次の式で表されます。
$$P=I^2 R_{DC}$$
この発熱でRFインダクタ自身の温度が上昇しますが、弊社が取り扱うコイルクラフト社では、周囲温度25℃の時に製品の温度が15℃上昇する電流値で規定しています。一般的にRFインダクタを基板に実装した状態で、直流電流をRFインダクタに流して測定します。なお、パワーインダクタにはIsatという磁性体コアに関係する上限電流もありますが、RFインダクタは磁性体コアを使っていないため、温度上昇の上限電流値だけが規定されています。
5.製品の温度について
温度に関しては、製品に問題が生じない上限の温度で、製品表面で測定します。RFインダクタは巻線全体で発熱します。その熱は、はんだ付けされた端子を介して基板と製品表面から空気中に伝搬し、ある温度で平衡状態となります。この平衡状態となった製品表面温度が製品上限温度以下になるように、通電電流を決めてください。もし同じ通電電流でも周囲温度を低く保つことができれば、製品の表面温度は低くなります。従ってこの時はその分通電電流を増やしても問題はありません。
6.DCR (直流抵抗)
RFインダクタの巻線は銅線を使っています。そのため銅の抵抗成分がそのままDCRとして計測できます。抵抗値は、断面積に反比例し長さに比例した値として算出でき、直流に対する抵抗値となり、消費電力は次の式で表されます。
$$P=I^2 R_{DC}$$
しかし、交流に対する抵抗値は上式では計算できなくなります。金属線に高周波電流を流した場合、周波数が高くなればなるほど、表皮効果という現象によりインピーダンス(交流に対する抵抗成分)が大きくなり、結果温度上昇が大きくなります。ただ、表皮効果による損失は正確に算出することが難しいため、実際に動作させて温度上昇を実測して125℃を越えないことを確認する必要があります。ですから、DCRはあくまでRFインダクタの性能を確認する目安の値と考えてください。
本稿では、RFインダクタのデータシートの読み方について簡単に説明してみました。RFインダクタ選定の時の参考になれば幸いです。