
電界センシングによる非接触のタッチセンサについて
昨今のコロナ禍において、衛生面から端末操作での接触を避けたいというニーズが高まり様々なシチュエーションでの非接触アプリケーションが注目されています。Microchip社では非接触アプリケーションに向けて、電界センシングを使用したタッチセンサを用意しています。今回は、電界センシングの仕組みと特徴、応用アプリケーションや光学式センシングとの比較を解説致します。

1.Microchip社の非接触タッチセンサについて
1)電界センシングの仕組み
Microchip社の非接触タッチセンサ(MGC3x30シリーズ)の検知方式は電界センシングを使用しています。電界センシングは、電界に人の指や電界を変化させる物質が触れると、電界が影響を受け変化します。(図1/図2)この電界の変化を読み取り、タッチ検出を行っています。

図1:乱れのない電界の等電位線

図2:乱れが生じた電界の等電位線
2)センサに入力される信号ついて
実際のセンサで入力を検知する際は、電界の変化をセンサにて検知している訳ではありません。周波数の変化をタッチセンサ内にて確認しています。以下がMGCシリーズの等価回路になります。(図3)
① VTxにて特定の周波数(44~115 kHz)の周波数を送信します。
② VRxにてその周波数がTx電極とRx電極を通る事で、電界が発生します。
③ 電界が発生する事で、送信した周波数がVRXBUFとなり、センサへ入力されます。
④ 電界に手が触れていない場合はCHのラインは追加されません。逆に電界に手が触れていると、CHのラインが追加される事で、VRXBUFへ返ってくる信号が変化します。

図3:電極(センサ)を接続した際の等価回路
- VTX:送信(Tx)電極の電圧
- VRXBUf:MGC3X30の受信(Rx)入力電圧
- CH:Rx電極と手(グランドに接続)の間の静電容量です。人体は電極に比べて非常に大きいため、ユーザの手は常にグランドに接続されているものと見なす事ができます。
- CRxTx:Rx電極とTx電極の間の静電容量
- CRxG:Rx電極とシステムグランド間の静電容量とMGC3X30の受信回路の入力静電容量の合計
- CTxG:Tx電極とシステムグランド間の静電容量
- eRx:Rx電極
- eTx:Tx電極
⑤ センサ内に入力された信号はADCで読み取られ、センサ内部にてジェスチャの判定や位置検出等の計算値として使用されます。(図4)
図4:MGC3x30の内部ブロック図
MGCの非接触タッチセンサの原理については以上になります。
3)電界センシングの特徴
電界センシングは、光や音などの周囲環境の影響に関わらずセンシングを行えます。また、44~115kHz帯の周波数を用いているため、無線周波数の規制を受けず、他の無線機器からの干渉も回避できます。センシングエリアは、電極(センサ)をすべて電界が覆う形で生成されるため、センサに検出の死角が生じません。
2.光学センサとの比較
同じ非接触のセンサとして、光学式センサがあります。弊社の取り扱い製品であるNeonode社の光学センサとMicrochip社の電界センシングICではどの様な差があるのか、いくつか比較してみようと思います。
1)検知距離について
Microchip社の電界センシングICの検知距離は最大20cm(電極サイズ200mm+Txをブーストする設計が必要)(図5)Neonode社の光学センサの検知距離は最大34.6cm(センササイズ346mm)(図6)検知距離については、光学センサの方がより遠くの検知を行えます。
図5:電極(センサ)サイズと検知距離の関係
図6:電極(センサ)サイズ検知距離の関係
2)センサ形状について
Microchip社の電界センシングICのセンサ形状は主に4つのセンサ形状が選択可能です。(図7)Neonode社の光学センサICのセンサ形状は赤外線を照射する位置を変更するのみで形状を変化させる事はできません。(図8)センサ形状については、電界センサの方がより柔軟なセンサ設計が行えます。

図7:電極(センサ)形状

図8:センサ形状
3)消費電力について
Microchip社の電界センシングICの消費電力は66mW@3.3V(図9)Neonode社の光学センサの消費電力は110 mW @5V(346mm)(図10)消費電力については、電界センサの方がより低消費で駆動することができます。
図9:各モード毎の消費電力
図10:センササイズ毎の消費電力
上記比較より、どちらのセンサも用途によって使用するシチュエーションが違い、近距離や低消費電力での検知が必要であれば、Microchip社の電界センシングICの方がデザイン性、消費電力においてメリットがあり、逆に遠距離や高精度での検知においてはNeonode社の光学センサにメリットがあります。
3.応用事例
ここでは、Microchip社の非接触タッチセンサを使用したアプリケーション例をご紹介します。
1)音楽用スピーカーやヘッドホン
MGCシリーズの採用例として、音楽用スピーカーやヘッドホンに採用されています。手のジェスチャを駆使する事で、音量調整、トラックの繰り替えを行えるようになっています。(図11/図12)

図11:音楽用スピーカー上部にMGCを採用した例

図12:ヘッドセットの片方にMGCを採用した例
2)車のフロントパネル周り
MGCシリーズは車載での採用実績もあります。車のフロントパネルにて、空調、ドアウィンド、カーナビの操作等をジェスチャにて操作する事が可能です。(図13)
図13:カーナビにMGCを採用した例
今回は、Microchip社の非接触タッチセンサの仕組み、光学センサとの比較、応用事例について説明させて頂きました。弊社は、非接触アプリケーションに対する選択肢として、今回紹介したMicrochip社の非接触タッチセンサ、Neonode社の光学センサがございますので、非接触アプリケーションの開発を行う際の候補として参考にして頂ければ幸いです。