リチウムイオン電池選定のヒント
「持続可能な社会の実現に貢献する」として注目されているリチウムイオン電池は、スマートフォン・生活家電・電気自動車・再生エネルギー蓄電など普段の生活で目にする分野だけでなく、医療機器・計測器・防災機器等の産業分野においても広く採用されています。今回は、リチウムイオン電池を必要とする機器開発における課題と、それを解決するヒントについてご説明します。
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1.リチウムイオン電池採用における課題
リチウムイオン電池を採用する製品の開発にあたり、いくつかの課題が存在します。主な課題は以下の通りです。
① 開発工数
リチウムイオン電池の保護回路・残量計の設計や安全性確保、充電器等の周辺機器開発など、バッテリー開発には多岐にわたる工程があります。これらの工程においては、詳細な実験や分析、繰り返しの試行錯誤が必要であり、これにかかる工数やコストは装置開発において大きな課題となります。
② リチウムイオン電池の安全性確保
バッテリーの安全性は非常に重要です。過充電、過放電、短絡などの状況で発生するリスクを最小限に抑えるために、安全な設計、適切な制御システム、安全性評価テストが必要です。
③ 安全認証規格の調査
バッテリーを使用する機器は安全性が求められるため、国際的な安全認証規格に基づいて開発・製造する必要があります。これには年々更新される各国や業界ごとの規格の調査と理解が必要であり、これが十分に行われないと製品を市場に出すことが難しくなります。また、安全規格の追加や改版時には追加試験のコストや工数が発生します。
④ バッテリーメーカーや部品メーカーによる製造中止
使用する部品や素材の生産が中止される可能性があります。また、バッテリーメーカーが電池パックそのものを生産中止とする場合もあります。これは供給不足を引き起こし、製品の生産計画に影響を与える可能性があります。
2.課題解決のヒントとソリューションの紹介
各種規格に適合した安全性の高いメーカー標準品のスマートバッテリーを採用することで上記課題の大半を解決することができます。
課題 | ソリューション |
---|---|
開発工数 | 設計が完了している標準品を採用することでバッテリー及び周辺機器開発に関わる期間とコストを削減可能 |
安全性 | 各国安全認証規格に準拠することで安全性に関するリスクを削減 高度な管理が求められるISO規格に基づいた開発・製造・品質管理を実施 |
認証規格 | ワールドワイドで販売実績のあるバッテリーであれば規格の更新や新規追加にもバッテリーメーカーが対応可能 |
製造中止 | 製造中止を行わない方針を宣言するメーカーを選定する |
3.バッテリー選定のヒント
装置機能が求める電圧や要求される動作時間により採用すべき製品を選定することができます
事例(1) スマートフォンのような0.9V~3.3V程度の電圧範囲で動作するハンディ機器
消費電力:0.8W 要求動作時間:15時間
=0.8W × 15時間
=12Wh
標準品一覧から近い仕様のバッテリーを選定する
→RRC1130 定格仕様3.8V、3.81Ah、14.47Wh
事例(2) 5Vや12Vが必要とされる機器
機器の回路構成から、昇圧・降圧 両方の回路を入れるよりもバッテリー電圧を高くして降圧のみにした方が設計上の効率が良くなる場合がある。バッテリー電圧が高い物を使用することで同じ負荷であっても電流値が下がり発熱量を抑えられる。
→セル構成3S(10.8V)や4S(14.4V)以上の製品を選定
RRC power solutions社はリチウムイオン電池パックおよび充電器のリーディングカンパニーであり、同社の製品は上記のソリューションを満たしたメーカーです。
製品ラインアップ
POWERPAQ 主な仕様
型番 | セル構成 | 電圧(V) | 容量(Ah / Wh) | 寸法(mm) | 重さ(g) |
---|---|---|---|---|---|
RRC2037 | 2S1P | 7.20 | 2.90 / 20.90 | 85.4 × 42.0 × 22.4 | 121 |
RRC2057 | 2S2P | 7.20 | 6.90 / 49.70 | 85.1 × 77.4 × 22.4 | 240 |
RRC2040 | 3S1P | 10.80 | 3.35 / 36.20 | 84.9 × 58.8 × 21.9 | 170 |
RRC2040-2 | 3S2P | 10.80 | 6.90 / 74.52 | 150.3 × 58.8 × 21.9 | 340 |
RRC2020 | 3S3P | 10.80 | 9.22 / 99.60 | 149.0 × 89.0 × 19.7 | 490 |
RRC2054 | 4S1P | 14.40 | 3.45 / 49.70 | 85.1 × 77.4 × 22.4 | 240 |
RRC2054-2 | 4S2P | 14.40 | 6.90 / 99.40 | 150.4 × 77.4 × 22.4 | 430 |
RRC2024 | 4S3P | 14.40 | 6.60 / 95.00 | 167.2 × 107.2 × 21.5 | 590 |
RRC3570 | 7S1P | 25.20 | 3.90 / 98.28 | 173.0 × 80.0 × 39.0 | 655 |
FLATPAQ 主な仕様
型番 | セル構成 | 電圧(V) | 容量(Ah / Wh) | 寸法(mm) | 重さ(g) |
---|---|---|---|---|---|
RRC1120 | 1S1P | 3.60 | 2.35 / 8.46 | 52.5 × 35.0 ×11.2 | 42 |
RRC1130 | 1S1P | 3.80 | 3.81 / 14.47 | 84.0 × 61.2 × 6.7 | 65 |
RRC2130 | 2S1P | 7.60 | 3.88 / 29.50 | 150.6 × 86.2 × 8.4 | 172 |
RRC2140 | 3S1P | 11.40 | 3.88 / 44.20 | 212.9 × 86.2 × 8.4 | 255 |
4.その他の課題 : 鉛蓄電池からの代替検討
鉛蓄電池を採用している製品の課題について、リン酸鉄系リチウムイオン電池に代替することで課題を解決できる可能性があります。それぞれの製品特徴と課題点は以下の通りです。
鉛蓄電池(鉛酸電池)
課題 | 重量があるため移動体には不向き | ||
---|---|---|---|
サルフェーションやドライアップを避ける運用が必要 | |||
鉛と硫酸は環境に対して有害 | |||
特徴 | 低コストで入手可能 | ||
大容量のエネルギーを格納できるが重い | |||
放電深度に反比例して電圧降下が発生 |
リン酸鉄系リチウムイオン電池
課題 | コストが鉛蓄電池よりも高い | ||
---|---|---|---|
電圧降下が少なく電圧による残容量の把握が難しい | |||
特徴 | 軽量でありながら高いエネルギー密度を持つ | ||
メンテナンスが不要 | |||
環境にやさしい |
製品の軽量化やメンテナンスコストの削減をするためには、鉛蓄電池からリン酸鉄系リチウムイオン電池への代替検討が有効です。リン酸鉄系リチウムイオン電池は従来の鉛蓄電池と同等形状を保ちながら、以下の特性を持った蓄電池です。
①高い安全性 ②軽量化 ③メンテナンスフリー ④動作安定性の改善
① 高い安全性
正極材料のリチウム鉄リン酸塩(LFP)は科学的に安定しているため酸素発生が少なく、発火のリスクが他のリチウムイオン電池と比べて低減されています。
② 軽量化
体積エネルギー密度は鉛蓄電池と同程度ですが、重量エネルギー密度はおよそ2~3倍あるため製品の軽量化に貢献できます。1kWhの鉛蓄電池は約30kgあり労働安全の観点から一人では取り扱えない重量になる為、電池交換等の際は2人以上の人件費が発生します。リン酸鉄系リチウムイオン電池の場合は同容量でも14kg程度に抑えることができます。
種類 | 鉛蓄電池 | リン酸鉄系リチウムイオン電池 |
---|---|---|
重量エネルギー密度 | 25~40Wh/kg | 90~110Wh/kg |
体積エネルギー密度 | 50~100Wh/L | 100~120Wh/L |
1kWh時の概算重量 | 30kg | 14kg |
③ メンテナンスフリー
自己放電が鉛蓄電池よりも少なく補液も不要です。
④ 動作安定性の改善
鉛蓄電池は残容量[Ah]や放電電流値に反比例して大きく電圧降下しますが、リン酸鉄系リチウムイオン電池は電圧降下が少なく安定した動作が可能です。取り出せるエネルギー容量[Wh]は電圧[V]と放電容量[Ah]を乗算した値となる為、放電曲線下の面積がエネルギー容量[Wh]を表しています。定格仕様が同程度の電池の放電特性を比較すると鉛蓄電池とリン酸鉄系リチウムイオン電池では大きな差があることがわかります。
一般的な鉛蓄電池(12V/7Ah)の放電特性
リン酸鉄系リチウムイオン電池(URB1270 12.8V/7.5Ah)
の放電特性
Ultralife社 URBシリーズラインアップ
型番 | 電圧(V) | 容量(Ah) | 最大放電電流(A) | 寸法(mm) | 重さ(g) |
---|---|---|---|---|---|
URB1270 | 12.8 | 7.6 | 15 | 152×65×92 | 1.10 |
URB12200 | 12.8 | 20.0 | 20 | 181×76×165 | 2.85 |
URB12350 | 12.8 | 38.0 | 76 | 195×127×171 | 4.70 |
URB12550 | 12.8 | 55.8 | 55 | 256×132×200 | 7.85 |
URB121000 | 12.8 | 100.0 | 80 | 340×170×210 | 13.90 |
URB6450 | 6.4 | 5.4 | 9 | 70×48×100 | 0.36 |
URB12400-U1-SMB | 12.8 | 38.4 | 20 | 209×136×182 | 5.40 |
URB12450-U1-SMB | 12.8 | 45.6 | 20 | 208×136×182 | 5.44 |
URB24200 | 25.6 | 20.0 | 60 | 195×132×180 | 7.00 |
URB24250-U1-SMB | 25.6 | 26.6 | 50 | 208×136×182 | 5.64 |
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使用温度範囲:放電:−20℃〜+60℃ 充電:0〜+45℃
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保護回路:過充電、過放電、過電流、セルバランス、温度監視
弊社では要求仕様に合わせたカスタムバッテリーについてもご提案可能です。リチウムイオン電池の採用を検討する際は、弊社までお問合せ下さい。